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(カーサブランカ)、長谷川行光(東京エレクトロン)らの、全国でもトップレベルの選手がずらり顔を並べる。しかし、そのどの選手も影が薄くなってしまった。あの佐久本嗣男(沖縄教育庁)が帰ってきたのだ。
佐久本は84年(オランダ)、86年(オーストラリア)88年(エジプト)の世界大会個人形で3連覇を成し遂げた超実力者。その後、現役を引退しナショナルチームなどのコーチとして指導に専念していたが、今年6月に行われた西日本実業団選手権に突如参加して周囲をあっと言わせる。その西日本大会で圧倒的差をつけて見事優勝に輝いて今大会への出場権を獲得した佐久本は、さらに周囲の注目を集めることになった。
予選でペイクーを演じた佐久本は、二十八歩を演じた長谷川伸一と同じ3・3点で決勝進出を果たす。決勝では演武順2番目となった佐久本。男子決勝と女子決勝が同時にふたつのコートで行われていたのだが、佐久本の登場と同時に女子決勝は中断され、会場の選手、役員、審判団が一斉に佐久本演ずるアーテンに注目した。老練にして重厚な形に、周囲はため息をもらす。
叩き出した得点は27.8点。以下、佐久本に追いつこうとする長谷川伸一はスーパーリンペイで27.0点。同じく長谷川行光は松村派バッサイで27.4点。他の追随を許さず、佐久本が実業団全日本王者の栄冠を手に入れた。
今年49歳の佐久本は現在、沖縄県の教育庁勤務。空手の世界チャンピオンという経験を活かし、小学校などで『夢』について講演する機会があり、常に「夢をあきらめず、目標を持ってがんばれ。やればできる。素質というのはあてにならない、継続することが大切だ」というようなことを子供たちに語っている。
「そうしたある時、その講演を聞いた子供から手紙が来まして『先生は僕たちにがんばることが大切だと言いましたが、先生は今、何を目標にがんばっているんですか』と書いてある。そこで私は自分でひとつの目標を立て、その結果を年内中に出そうと約束したのです。子供たちとの約束はどんな小さなことでも守らなかったら大変なことになりますからね(笑)」。
家族をはじめ周囲からの猛反発もあったという今回の復活劇だが、そのプレッシャーにも負けず見事に子供たちとの約束を果たした佐久本。今後は再び指導に専念するという。

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